「地面師」とは何か?
「地面師」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
ドラマが話題になったことによって、初めてこの言葉を耳にしたという人も多いかと思います。
公式サイト:地面師たち | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
地面師とは、他人の土地を不正に売却したり、架空の土地を売りつけたりする詐欺師のことを指します。
彼らの手口は非常に巧妙で、時には大企業すら騙す高度なテクニックをもっています。
その存在は長らく都市伝説のように語られてきましたが、2017年に起きた積水ハウス詐欺事件によって、その実態が広く知られることとなりました。
積水ハウス地面師詐欺事件の経緯
出典:東京やどNOTES>東京都23区のホテル&旅館 旧・海喜館 Umiki-kan (N/A)
事件の概要
2017年、日本の不動産業界に衝撃が走りました。
大手住宅メーカーの積水ハウスが、東京都品川区の一等地を購入しようとした際、「地面師」グループに約55億円をだまし取られたのです。
この事件は、不動産取引における既存の本人確認や書類審査のプロセスの不備を露呈させ、業界全体に大きな警鐘を鳴らすこととなりました。
事件の詳細な流れ
事件は2017年4月に始まりました。
積水ハウスは東京都品川区西五反田にある「海喜館(うみきかん)」という元老舗旅館で約2000平方メートルの土地について、所有者と名乗る人物らと売買契約を締結します。
その後、6月までに計63億円という巨額の支払いを完了しましたが、ここで思わぬ展開が待っていました。
法務局で土地の所有権移転手続きをしようとしたところ、所有者側から提出された書類が偽造されていたことが判明し、申請が却下されたのです。
驚いた積水ハウスが所有者側に連絡を取ろうとしましたが、すでに所有者と連絡が取れない状況になっていました。
そして、契約時に立ち会った女性が所有者になりすましていたという衝撃の事実が明らかになったのです。
最終的に、積水ハウスは所有者側からの預かり金を差し引いた55億5900万円をだまし取られたことが判明しました。
事件の不自然な点と積水ハウスの対応
この事件が明るみに出た後、積水ハウスが発表した社内調査では、多くの不自然な点が指摘されました。
まず、問題の土地は、マンションを建設すれば即完売必至とされる一方で、売りに出ない土地としても同業者間で有名でした。
このような矛盾した情報があったにもかかわらず、積水ハウス側は取引を進めてしまったのです。
積水ハウス側も当初は地面師の関与を疑ったものの、公正証書などを提示されて信用してしまいました。
所有者の本人確認も書類で済ませ、写真を近隣住民に見せて確認するという基本的な手順さえ、「所有者の機嫌を損ねる」という理由で省略してしまっていたのです。
また、この土地購入は「社長案件」として扱われ、通常の取引では考えられないほど異例の早さで稟議書が決裁されました。
さらに不可解なのことに、取引を巡って実際の所有者を名乗る人物から契約は無効だと警告する内容証明郵便が届いたにもかかわらず、これを取引を妨害する動きだとして無視していました。
無視していたどころか、妨害を沈静化させるという名目で、支払いを前倒しまでしていたのです。
事件の結果と捜査
この事件の結果、積水ハウスは約55億円という巨額の損失を被りました。
この事件は、不動産取引における本人確認の重要性を改めて認識させるきっかけとなり、不動産業界全体で取引プロセスの見直しが行われることとなりました。
積水ハウスからの告訴を受けて警視庁が捜査を開始し、2018年10月には、地面師グループの男女数人が、偽造有印私文書行使と電磁的公正証書原本不実記録未遂容疑で逮捕されました。
この事件は、大手企業であっても不動産詐欺の被害に遭う可能性があることを示し、業界全体に大きな警鐘を鳴らしたのです。
ちなみに、この事件の舞台となった海喜館の跡地には旭化成不動産レジデンスが、アトラスタワー五反田を建設しました。
人気の高級新築分譲マンションとして販売されたものが完売して、2024年3月に住人に引き渡されています。
出典:アトラスタワー五反田 | 現場レポート | 旭化成の都市型マンション「ATLAS」(アトラス)
不動産詐欺の典型的な手口
不動産詐欺は年々巧妙化していますが、その手口には以下のような一定のパターンがあります。
ここでは、代表的な手口とその対策について詳しく解説していきます。
(1)偽造書類の使用
(2)なりすまし
(3)二重売買
(4)架空物件の販売
(1)偽造書類の使用
地面師たちが最もよく用いる手口の一つが、精巧な偽造書類の使用です。
彼らは不動産登記簿謄本、印鑑証明書、さらには公正証書まで偽造し、自分たちが正当な所有者や代理人であるかのように装います。
これらの偽造書類は非常に精巧で、素人目にはほとんど見分けがつきません。
この手口に対抗するためには、書類の真偽を公的機関で確認することが重要です。
また、弁護士や司法書士といった専門家に書類のチェックを依頼することも有効な対策となります。
最近では、電子認証システムを利用して文書の真正性を確認する方法も普及しつつあります。
(2)なりすまし
なりすましは、実際の所有者や関係者になりすまして取引を進める手口です。
例えば、所有者の親族や代理人を装ったり、偽造した身分証明書を使用したりします。
最近では、SNSなどで得た個人情報を悪用するケースも増えています。
この手口を防ぐためには、複数の身分証明書での本人確認が欠かせません。
また、可能な限り対面での取引を心がけ、本人確認のための詳細な質問を準備することも効果的です。
取引相手の素性を徹底的に調査することが、被害を防ぐ鍵となります。
(3)二重売買
二重売買は、同じ物件を複数の買主に売却する手法です。
短期間に複数の買主と契約を結び、先に入金した相手に所有権を移転するといった手口が典型的です。
また、所有権移転登記を意図的に遅らせ、その間に別の買主と契約を結ぶケースもあります。
この手口を防ぐには、取引前に不動産登記簿を必ず確認することが重要です。
また、信頼できる仲介業者を通じて取引を行うことも有効です。
契約後は速やかに所有権移転登記を行うことで、二重売買のリスクを大幅に減らすことができます。
(4)架空物件の販売
架空物件の販売は、実際には存在しない物件や、権利関係が複雑な物件を売りつける手口です。
インターネット上で存在しない物件の魅力的な広告を掲載したり、複雑な権利関係を持つ物件を、問題がないように装って販売したりします。
この手口に騙されないためには、必ず現地を訪れて物件を確認することが不可欠です。
また、近隣住民や自治体に物件の情報を確認することも有効です。
不動産登記簿で権利関係を詳細に調査することで、潜在的な問題を事前に把握することができます。
不動産詐欺から身を守るための注意点
不動産詐欺を防ぐためには、取引の各段階で細心の注意を払う必要があります。
以下に、具体的な注意点とその実践方法を紹介します。
(1)徹底した本人確認
(2)専門家の助言をもらう
(3)焦らない、急かされない
(4)登記情報を確認する
(5)現地調査を怠らない
(1)徹底した本人確認
本人確認は、不動産取引における最も重要なステップの一つです。
単に身分証明書を確認するだけでなく、複数の証明書(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)を照合することが重要です。
また、顔写真付きの身分証明書と本人の顔を直接照合することも忘れてはいけません。
さらに、本人しか知り得ない情報(近隣の情報や過去の取引履歴など)を確認することで、より確実な本人確認が可能となります。
(2)専門家の助言をもらう
不動産取引は複雑で、素人には分かりにくい点が多々あります。
そのため、専門家の助言を得ることが非常に重要です。例えば、弁護士や司法書士に契約書のチェックを依頼したり、不動産鑑定士に物件の適正価格を評価してもらったりすることで、多くのリスクを回避できます。
また、税務面でのアドバイスを税理士に求めることも、長期的な観点から見て非常に有効です。
(3)焦らない、急かされない
不動産詐欺の多くは、買主を焦らせることで冷静な判断を妨げようとします。
「今すぐ決めないと他の人に売れてしまう」といった圧力をかけてくることがありますが、こうした状況こそ要注意です。
十分な検討時間を要求し、疑問点がある場合は納得いくまで確認することが大切です。
焦って判断を誤れば、後々大きな代償を払うことになりかねません。
(4)登記情報を確認する
不動産登記簿は、物件の権利関係を知る上で最も重要な情報源です。
法務局で最新の登記情報を取得し、過去の所有者の変遷や、抵当権などの権利設定の有無を確認することが重要です。
登記情報の確認をきちんと行えば、複雑な権利関係に巻き込まれたり、二重売買の被害に遭ったりする可能性を防ぐことができます。
(5)現地調査を怠らない
どんなに魅力的な説明や写真を見せられても、実際に現地を訪れて物件を確認することは欠かせません。
周辺環境(交通の便、商業施設、学校など)を自分の目で確認し、近隣住民に物件や地域の評判を聞くことで、広告やセールストークだけでは分からない情報を得ることができます。
現地調査は手間がかかりますが、それによって回避できるリスクを考えれば、決して無駄な時間ではありません。
最近の不動産詐欺事例
不動産詐欺は常に新しい手口が登場しています。
ここでは、最近報告された事例とその詳細、そして私たちが学ぶべき教訓について紹介します。
事例1:東京都中野区の空き家を悪用した詐欺事件(2022年)
2022年2月、東京都中野区の空き家を無断で賃貸物件として広告し、複数の被害者から敷金や礼金をだまし取った詐欺事件が発覚しました。
詐欺グループは、所有者が不在の空き家を勝手に賃貸物件として掲載。
SNSで物件情報を拡散し、内見希望者を募りました。被害者たちは実際に物件を内見し、契約書にサインをして敷金や礼金を支払いましたが、入居直前になって「設備の不具合が見つかった」などと連絡があり、その後音信不通となりました。
警視庁によると、20代から40代の男女7人が逮捕されました。
被害総額は約1,000万円に上り、20人以上が被害に遭ったとされています。
事例2:大阪府堺市の投資用マンション詐欺事件(2020年)
2020年7月、大阪府堺市で、投資用マンションを巡る大規模な詐欺事件が摘発されました。
不動産会社の元社長ら3人が、投資用マンションの価値を過大に評価し、購入者に高額なローンを組ませて販売していました。
彼らは、実際の家賃収入が約束額を大幅に下回ることを知りながら、「安定した家賃収入が得られる」と偽って販売しました。
この詐欺により、約200人の被害者が総額約70億円の被害を受けたとされています。
大阪府警は、詐欺の疑いで不動産会社の元社長ら3人を逮捕しました。
これらの事例から、不動産取引における慎重さの重要性が改めて浮き彫りになります。
特に、急かされたり、市場価格と大きく異なる提案を受けたりした場合は要注意です。
また、高齢者や投資初心者を狙った詐欺も多いため、家族や専門家に相談することの大切さも分かります。
常に警戒心を持ち、十分な調査と確認を行うことが、安全な不動産取引への近道となるでしょう。
参照:投資用マンションのしつこい勧誘電話についての苦情が増えています!
国土交通省には、ネガティブ情報等検索サイトというものが存在します。
このサイトを使うと、過去に行政処分を受けたことのある不動産会社を検索できます。
不審に思う点があったら、一度こちらのサイトで検索してみて、過去に不正を行ったことのある事業者でないか確かめるといいでしょう。
そういった業者との取引は避けましょう。
安全な不動産投資のために
不動産詐欺は常に進化し、新たな手口が登場しています。
投資家や購入者は、多角的なアプローチで自身を守る必要があります。具体的には、徹底した本人確認、専門家への相談、焦らない姿勢、登記情報の確認、現地調査などが重要です。
さらに、国土交通省のネガティブ情報等検索サイトなどのツールを活用し、取引相手の信頼性を確認することも欠かせません。
不動産取引においては、常に警戒心を持ち、十分な調査と確認を行うことが安全な取引への近道となります。
しかし、これは必ずしも投資を避けるべきだということではありません。
不動産投資は、適切に行えば安定した収益を得られる魅力的な投資方法です。
重要なのは、詐欺のリスクを恐れるあまり投資機会を逃すのではなく、正しい知識と慎重な姿勢を持って取り組むことです。
テクノロジーの進歩により、今後はより安全で透明性の高い不動産取引が可能になると期待されます。
しかし、最終的に重要なのは、投資家一人一人の意識と行動です。
「うまい話には裏がある」という格言を心に留め、常に警戒心を持って取引に臨むことが、安全で成功する不動産投資への近道となるでしょう。
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