ESG投資の基本と不動産市場での重要性
出典:ESG投資とは | 責任投資 | 野村アセットマネジメント
ESG投資とは、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素も考慮した投資手法です。
近年、この概念は不動産市場においても重要性を増しています。
ESGの基本概念
環境(E):省エネルギー、CO2排出削減、再生可能エネルギーの利用など
社会(S):テナントや地域社会との関係、従業員の健康と安全、ダイバーシティなど
ガバナンス(G):企業倫理、法令遵守、情報開示、リスク管理など
これらの要素を総合的に評価し、長期的な視点で持続可能な投資を行うことがESG投資の基本です。
不動産投資におけるESGの位置づけ
UNEP Finance Initiativeによると、不動産セクターは、全世界のCO2排出量の約40%を占めるとされており、環境負荷削減の観点から特に注目されています。
また、建物は人々の生活や仕事の場として社会に大きな影響を与えるため、社会的責任も重要です。
ESGに配慮した不動産は、以下のような特徴を持ちます。
●環境性能の高さ(省エネ設備、再生可能エネルギーの活用など)
●快適性や健康に配慮した設計
●災害に対するレジリエンス(回復力)
●既存建物のグリーンリノベーション
●地域社会との良好な関係
日本の不動産投資市場におけるESGの現状
日本不動産研究所の最新の調査によると、ESG投資への関心は着実に高まっています。
出典:https://www.reinet.or.jp/pdf/REIS/special_questionnaire50-2th.pdf
2024年4月1日時点での調査対象の不動産投資家のうち、36.6%が国連の責任投資原則(PRI)に署名しています。
また、39.4%の投資家が2023年度のGRESB(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)調査に参加しています。
GRESB調査とは、不動産セクターにおけるESGパフォーマンスを評価するための年次調査です。
2009年に欧州の主要年金基金グループの主導で設立され、現在は世界中の不動産会社やファンドが参加しています。
国連のPRIへの署名やGRESB調査への参加は、日本の不動産投資市場においてもESGが重要な判断基準になりつつあることを示しています。
出典:https://www.reinet.or.jp/pdf/REIS/special_questionnaire50-2th.pdf
特筆すべきは、投資家のESGに対する将来的な期待の高さです。
調査によると、現在はESG投資に適した不動産とそうでない不動産の賃料収入に「特に違いはない」(79.6%)という回答が多数を占めています。
しかし、10年後には「1~5%程度高い」(61.1%)とする回答が最多となり、ESG要素の重要性が大きく高まると予想されています。
このように、ESG投資は不動産市場において今後ますます重要性を増すと考えられています。
サラリーマン投資家の方でも、長期的な視点でESGを考慮した投資戦略を検討することが重要になってくるでしょう。
ESG不動産投資のメリットと課題
ESG不動産投資は、環境・社会・ガバナンスの要素を考慮しながら不動産に投資する手法です。
この投資アプローチは、持続可能性と収益性の両立を目指すものとして、近年急速に注目を集めています。
ここでは、ESG不動産投資がもたらすメリットと、投資家が直面する可能性のある課題について詳しく見ていきましょう。
ESG不動産投資のメリット
ESG不動産投資には、従来の不動産投資にはない独自のメリットがあります。
これらのメリットは、長期的な視点で見たときに特に顕著となり、投資の安定性と収益性を高める可能性があります。
以下に、主要なメリットを3つ挙げて説明します。
(1)長期的な収益性の向上
(2)リスク管理の強化
(3)投資家からの評価向上
(1)長期的な収益性の向上
ESG要素を考慮した不動産投資は、長期的な視点で見ると収益性の向上につながる可能性があります。
環境に配慮した建物は、エネルギー効率が高く、運用コストが低くなる傾向があるからです。
また、テナントの健康や快適性に配慮した物件は、入居者の満足度が高く、長期的な稼働率の維持につながります。
日本不動産研究所が、J-REIT保有物件のオフィスを対象に、日本政策投資銀行(DBJ)による不動産の環境性能や社会への配慮を評価・認証する制度であるDBJ Green Building認証と賃料の相関関係を調べました。
参照:明海大学山本卓研究室寄稿 【前編-②】集合住宅タイプESG不動産の賃貸経営管理の課題
その結果によると、2015年は相関がみられなかったが、同様の分析を継続的に行い、2016年は11.4%(10%有意水準)、2017年は11.9%(5%有意水準)、2018年は12.2%(1%有意水準)、2019年は6.9%(1%有意水準)とそれぞれ高いとする結果が報告されています。
同調査における最新の結果である2020年については、認証保有物件はそうでない物件と比べて5.9%賃料が高いと報告されています。
(2)リスク管理の強化
ESG要素を考慮することで、気候変動や規制変更などのリスクに対する耐性が高まります。
例えば、省エネ性能の高い建物は、将来的なエネルギー価格の上昇や炭素税の導入といったリスクに対して、より強い抵抗力を持つことができます。
世界経済フォーラムの「2024年グローバルリスク報告書」では、気候変動関連リスクが10年後の最も影響の大きいグローバルリスクとして挙げられています。
不動産投資においても、これらのリスクへの対応が重要性を増しており、ESG投資はその有効な手段の一つとなっています。
出典:Global Risks Report 2024 – Executive Summary
(3)投資家からの評価向上
ESGへの取り組みは、機関投資家からの評価向上につながります。
多くの機関投資家が投資判断にESG要素を組み込むようになっており、ESGに配慮した不動産は投資対象としての魅力が高まっています。
株式会社QUICKがまとめた「ESG投資実態調査2023」の結果によると、運用資産全体に占めるESG投資が「90%以上」の機関投資家の割合は、現在の33%から5年後には46%に高まり、ESG投資が一段と重要性を増すことが関係者の共通認識であること報告しています。
参照:5年後に過半に迫る ――ESG投資実態調査2023―― – 株式会社QUICK
また、2023年3月期から義務付けられた有価証券報告書のサステナビリティ情報は、85%の機関投資家が「活用している」と回答しました。
このトレンドは今後も継続すると予想され、ESGへの取り組みが投資家からの資金調達を容易にする可能性があります。
ESG不動産投資の課題
ESG不動産投資には多くのメリットがある一方で、投資家が直面する課題も存在します。
これらの課題は、特に中小規模の投資家やESGに関する専門知識が限られている投資家にとっては重要な考慮事項となります。
以下に、主な課題を3つ挙げて説明します。
(1)初期コストの増加
(2)評価基準の曖昧さ
(3)短期的な収益への影響
(1)初期コストの増加
ESG対応の設備導入や改修には、初期投資が必要となる場合があります。
例えば、高効率の空調システムや再生可能エネルギー設備の導入、建物の断熱性能の向上などには、相応の費用がかかります。
出典:https://www.reinet.or.jp/pdf/REIS/special_questionnaire50-2th.pdf
日本不動産研究所の調査によると、ESG投資に適した不動産の賃貸事業コストは、現在では「特に違いはない」(39.3%)または「1~5%程度高い」(41.1%)という回答が多数を占めています。
この初期コストの増加は、特に中小規模の投資家にとっては大きな障壁となる可能性があります。
(2)評価基準の曖昧さ
ESGの評価基準が統一されていないため、投資判断が難しい場合があります。
様々な認証制度や評価指標が存在しますが、それぞれの基準や重点項目が異なるため、投資家にとっては比較や判断が複雑になる可能性があります。
サステナブル会計基準審議会(SASB)は、不動産セクター特有のESG開示基準を設定していますが、グローバルでの統一的な適用にはまだ課題が残されています。
この状況は、特にESGに関する専門知識が限られているサラリーマン投資家にとっては、投資判断を難しくする要因となっています。
(3)短期的な収益への影響
ESG投資は長期的な視点が必要であり、短期的には収益性が低下する可能性があります。
ESG対応のための投資は、すぐには収益に反映されない場合が多く、短期的な収益を重視する投資家にとっては課題となる可能性があります。
前述の日本不動産研究所の調査では、現在のESG投資に適した不動産の賃料収入は「特に違いはない」(79.6%)という回答が多数を占めていますが、10年後には「1~5%程度高い」(61.1%)と予想されています。
この結果は、ESG投資の効果が現れるまでには時間がかかる可能性を示唆しています。
ESG不動産投資は、長期的な視点で見れば多くのメリットがありますが、同時に克服すべき課題も存在します。
サラリーマン投資家は、これらのメリットと課題を十分に理解した上で、自身の投資戦略にESG要素をどのように組み込むか検討することが重要です。
例えば、不動産投資信託(REIT)や不動産クラウドファンディングなどを通じて、専門家が運用するESG対応不動産に投資することも、リスクを分散しながらESG投資に参加する一つの方法といえるでしょう。
以下の記事では、J-REITと不動産クラウドファンディングについて解説しています。
不動産クラウドファンディングとREIT(リート)、その違いと特徴を徹底解説!
どちらも投資手法も次のような共通点を持っています。
①運用の手間がかからない
②少額からの投資が可能
③インターネットから簡単に始められる
④現物の不動産を所有しない
ただしもちろん違いもあるため、投資初心者にはよりリスクの少ない不動産クラウドファンディングをおすすめします。
持続可能な未来を見据えた不動産投資戦略
ESG不動産投資は、環境・社会・ガバナンスの要素を考慮した新しい投資アプローチとして、急速に注目を集めています。
この記事で見てきたように、ESG投資は長期的な収益性の向上やリスク管理の強化、投資家からの評価向上といったメリットがある一方で、初期コストの増加や評価基準の曖昧さ、短期的な収益への影響といった課題も存在します。
しかし、世界的な持続可能性への関心の高まりや、気候変動リスクの増大を考えると、ESG要素を考慮した不動産投資の重要性は今後さらに増していくと予想されます。
日本不動産研究所の調査結果が示すように、多くの投資家が10年後にはESG投資に適した不動産の価値が向上すると予測しています。
ESG不動産投資は、個人の資産形成だけでなく、持続可能な社会の実現にも貢献する可能性を秘めています。
課題を認識しつつ、長期的な視点でこの新しい投資機会に向き合うことで、経済的リターンと社会的インパクトの両立を目指す投資戦略を構築できるでしょう。
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