米国の利下げとは?
2024年9月、米国連邦準備制度理事会(FRB)が0.5%の利下げを実施し、世界中の注目を集めました。
この決定が日本経済にも大きな影響を与えると予想されています。
まずは、利下げの基本的な仕組みと目的、そして今回の利下げの背景について解説します。
利下げの仕組み
利下げとは、中央銀行が政策金利を引き下げることを指します。
米国の場合、FRBが連邦資金金利(FF金利)という短期金利の誘導目標を設定し、これを引き下げることで利下げを実施します。
具体的には以下のような流れになります。
(1)FRBがFF金利の誘導目標を引き下げる
(2)銀行間で資金を融通し合う際の金利(FF金利)が低下する
(3)銀行の調達コストが下がり、企業や個人向けの貸出金利も低下する
(4)経済全体の金利水準が下がる
利下げの目的
FRBが利下げを行う主な目的は以下の通りです。
① 経済成長の促進・・・低金利により企業の投資や個人の消費を促し、経済活動を活性化させる。
② 雇用の創出・・・企業活動の拡大により、新たな雇用機会を生み出す。
③ インフレ率の調整・・・適度なインフレを維持し、デフレを防ぐ。
④ 金融市場の安定化・・・経済の先行き不安を和らげ、市場に流動性を供給する。
2024年9月の米国の利下げの背景
2024年9月のFRBによる0.5%の利下げは、複数の経済要因が重なった結果として実施されました。
出典:https://jp.statista.com/statistics/1357282/unadjusted-monthly-inflation-rate-in-the-us
まず、2021年から続いていた高インフレが徐々に落ち着きを見せ始め、FRBが目標としている2%に近づいてきたことが大きな要因となりました。
これにより、インフレ抑制のための金融引き締めから、経済支援へと政策の舵を切る余地が生まれました。
さらに、グローバル経済の不確実性も無視できない要因となっています。世界各地で地政学的リスクが高まり、貿易摩擦の影響も続いていたため、経済の先行きに不透明感が漂っていました。
こうしたグローバルな課題は、米国経済にも影響を及ぼす可能性があり、FRBはこれらのリスクも考慮に入れた判断を迫られていたのです。
出典:米国 政策金利発表
注目すべきは、この大幅利下げの背景には、FRBの政策が後手に回らないようにするという意図があったと考えられることです。
2022年3月からの利上げ局面では、物価高騰への対応が遅れ、0.75%という大幅利上げを連続して実施せざるを得なかったという反省がFRBにはありました。
この経験が、今回の大幅利下げ実施につながった可能性が高いのです。
また、この決定には先行きの経済動向に対する保険的な意味合いもありました。
特に雇用を中心とした経済指標が大きく下振れした場合に、FRBが後手に回ったと批判されることを避けるための予防的措置とも解釈できます。
これらの要因を総合的に判断し、FRBは経済の軟着陸を図るために0.5%の利下げを決定しました。
この決定は、国内経済の支援だけでなく、世界経済の安定化にも寄与することを目指すと同時に、将来的な経済リスクに対する先手を打つ意図もあったのです。
米国の利下げが日本経済に与える影響
2024年9月のFRBによる0.5%の利下げは、日本経済に多岐にわたる影響を及ぼすことが予想されます。
ここでは、主要な影響について詳しく見ていきましょう。
(1)為替レートへの影響
出典:USDJPYチャート - ドル円レート - TradingView
米国の利下げは、円高ドル安の傾向を強める可能性が高いです。
低金利のドルから、相対的に金利の高い円へと投資資金が流れるからです。
実際、利下げ発表直後、円相場は一時1ドル=139円台まで上昇しました。
出典:〔為替感応度・自動車関連〕トヨタ、対ドル1円円安で500億円の増益効果
円高は輸出企業の収益を圧迫する可能性があります。例えば、トヨタ自動車は1円の値動きで営業利益500億円分の影響があると言われています。
同社の26年3月期の想定為替レートは1ドル=145円を想定しており、為替の影響から目が離せません。
(2)日本の金融政策への影響
日本銀行は、米国の金融政策動向を注視しつつも、主に国内の経済・物価情勢に基づいて金融政策を決定しています。
2024年7月の金融政策決定会合では、短期金利の誘導目標を0.25%程度に引き上げ、長期国債買入れの減額計画を示すなど、金融緩和の度合いを縮小する姿勢を明確にしました。
出典:日本の長期金利(10年国債利回り)の長期推移【チャート・変動要因】 – ファイナンシャルスター
また、日本銀行は、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けて、経済・物価・金融情勢を注視しながら、段階的に政策金利を引き上げていく方針を示しています。
2025年1-3月期に短期金利を0.50%に引き上げ、その後は半年に一度程度のペースで0.25%の追加利上げを行うと想定されています。
長期金利については、日本銀行が市場での金利形成を重視する姿勢を示しており、2024年10月時点で10年国債利回りは0.965%と、2カ月半ぶりの高水準となっています。
国債買入れの減額計画は、市場機能の回復を目的としており、金融引き締めを意図したものではないとされています。
このように、日本銀行は国内の経済・物価動向を主軸としつつ、米国の金融政策も考慮に入れながら、慎重かつ段階的に金融政策の正常化を進めていく姿勢を示しています。
インフレ目標の達成と経済の安定成長の両立を目指しつつ、市場との対話を重視した政策運営が続くと予想されます。
(3)株式市場への影響
基本的には、金利が下がると市場に出回る資金が増えて株価が上がります。
逆に、金利が上がると資金は金融機関に置かれて動きにくくなるため、株価が下がります。
出典:米金融緩和後も円安と日本株上昇が続く理由は?|SBI証券 投資情報メディア
米国の利下げは、日本の株式市場にも大きな影響を与えます。
9月18日の利下げ発表後、東京株式市場は大幅に上昇しました。日経平均株価は37,155.33円で取引を終え、前日比2.13%の上昇となりました。
取引中には一時1,000ポイント以上(約3%)上昇し、約2週間ぶりに37,000円台を回復しました。
その後、株高は一旦落ち着いたかに見えましたが、再び徐々に上昇しています。
10月15日の東京株式市場では続伸して始まり、前週末からの上げ幅が一時600円を超え、取引時間中として7月19日以来およそ3カ月ぶりに4万円台を回復しました。
日経平均株価については以下の記事で詳しく解説しています。
日経平均と不動産投資の意外な関係性 – サラリーマン投資家が知るべき市場の動き
日経平均株価を知ると、経済全体を見る目が養われ、金利との関係も理解することができます。
また、記事の中では日経平均株価と不動産投資の関係についても触れているので、この2つの関係性を学び、適切に活用することで、より安定した資産形成への道が開けるはずです。
(4)個人消費への影響
米国の利下げは、日本の個人消費にも様々な形で影響を及ぼす可能性があります。
まず、株価の上昇や円高による輸入品価格の低下が消費マインドを改善させる可能性があります。
特に、円高に伴う輸入品価格の下落は、食料品や燃料などの生活必需品の価格を押し下げ、消費者にとって短期的にはプラスの効果をもたらすでしょう。
しかし、これらの影響は必ずしも長期的に持続するとは限りません。
円高は日本企業の海外収益を円換算で減少させる可能性があり、長期的には賃金や雇用に悪影響を与える恐れがあります。
また、円高は訪日外国人にとって日本での消費を割高にし、インバウンド消費の減少につながる可能性もあります。
ただし、この影響も一時的なものにとどまる可能性があります。
さらに、米国の利下げは世界経済の不透明感を示唆する可能性もあります。
そのため、消費者が将来に対して慎重になり、大型消費を控える傾向が生まれる可能性も考えられます。
このように、米国の利下げが日本の個人消費に与える影響は複雑で、プラスとマイナスの要素が混在しています。
米国の利下げが日本経済にもたらす複雑な影響
2024年9月のFRBによる0.5%の大幅利下げは、日本経済に多面的かつ複雑な影響を及ぼしています。
この記事では、為替レート、日本の金融政策、株式市場、個人消費の4つの主要な側面から、その影響を分析しました。
まず、為替レートについては、円高ドル安の傾向が強まる可能性が高いことが明らかになりました。
これは輸出企業の収益に大きな影響を与える可能性があり、特に自動車産業など為替感応度の高い業界は注視が必要です。
日本の金融政策については、日本銀行が米国の動向を注視しつつも、主に国内の経済・物価情勢に基づいて慎重に政策を進めている状況です。
金融緩和の縮小と段階的な政策金利の引き上げが予想される中、市場との対話を重視した政策運営が続くとみられます。
株式市場への影響は顕著で、利下げ発表後の大幅な上昇とその後の継続的な上昇傾向が確認されました。
これは投資家心理の改善と、低金利環境下での株式投資の魅力向上を反映しています。
個人消費への影響は、短期的にはプラスの効果が期待される一方で、長期的には不確実性が高いことが示されました。
円高による輸入品価格の低下は消費者にとって有利に働く可能性がありますが、企業収益への影響を通じた賃金や雇用への悪影響も懸念されます。
総じて、米国の利下げが日本経済に与える影響は複雑で、短期的な効果と長期的な影響が混在しています。
また、グローバル経済の不確実性が高まる中、これらの影響は今後さらに変化する可能性があります。
今後の日本経済の動向を理解するためには、これらの要因を総合的に考慮し、継続的に情報を更新していくことが重要です。
政策決定者、企業、個人投資家のいずれにとっても、この複雑な経済環境下での適切な判断と対応が求められるでしょう。
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