ワーケーションが作り出す新しい働き方
場所や時間にとらわれない柔軟な働き方として、ワーケーションへの注目が高まっています。
コロナ禍をきっかけに広がったテレワークの定着により、オフィスに通勤する従来の働き方から、より自由度の高い働き方へとシフトが進んできました。
このトレンドは、不動産市場にも大きな変革をもたらしつつあります。
ワーケーションの定義と市場規模
ワーケーション(Workation)とは、「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた造語で、リゾート地や観光地で休暇を取りながら仕事を行う新しい働き方を指します。
出典:ワーケーション市場に関する調査を実施(2022年) | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
株式会社矢野経済研究所が2020年に行なった調査によると、ワーケーション市場は2023年には1,000億円規模に成長すると予測されていました。
実際の市場規模に関する最新の数字はまだ発表されていませんが、ワーケーションという言葉の浸透とともに、市場は今後も拡大していくと考えられます。
広がる企業の取り組み
大手企業のワーケーション導入も着実に進んでいます。
ユニリーバ・ジャパンは、早くから働く場所や時間を自由に選べる「WAA(Work from Anywhere & Anytime)」を導入しています。
この取り組みにより、働く場所の選択肢が広がり、地域に根ざした取り組みへと発展しています。
また、野村総合研究所(NRI)は、地域でのワーケーションを通じて社員の人材育成と地域貢献の両立を目指しています。
「会社の中だけにいてはイノベーションは起きない」という考えのもと、地域との積極的な交流を推進しています。
出典:NTTデータ経営研究所社員が自由な発想で企画・応募できるワーケーション制度を導入 | ニュースリリース
興味深いのは、これらの取り組みが単なる福利厚生策にとどまらず、実際の経営効果も生み出している点です。
企業からは「従業員の創造性向上」「生産性の向上」「人材採用力の強化」といった具体的な効果が報告されており、ワーケーションが経営戦略の一つとして機能していることがわかります。
こうした企業の積極的な導入と成功事例の蓄積は、ワーケーションが一時的なトレンドではなく、新しい働き方のスタンダードとして定着しつつあることを示しています。
福岡・九州でも世界から「デジタルノマド」を集める取り組みがスタート
デジタルノマドとは、その名の通り、「IT技術を活用し、パソコン1つを持って世界を旅しながら働くビジネス人」。
世界をベースにワーケーションを行っている人たちと言えます。
彼らはまさにデジタルノマド(遊牧民)で、その数は現在世界に3,500万人以上いると言われ、2030年には10億人にものぼると予測されています。
福岡市では2024年10月にデジタルノマド向けの一大イベント「Colive Fukuoka」が1か月間にわたって開催されました。
アジア最大級のデジタルノマド向けのイベントとして、国内外から200名以上が参加し、カンファレンスをはじめ、様々なアクティビティやワークショップが行われています。
ワーケーションの盛り上がりは、世界も視野に入れながら、都心に加えて、地方にもどんどんと広がっている流れとなり始めています。
Colive Fukuoka:10月は世界のデジタルノマドが福岡に集結!アジア最大級のノマドイベント開催
不動産市場に見るワーケーションの影響
ワーケーションの普及は、不動産市場に新たな変化をもたらしています。
特に注目すべきは、これまで別荘地や観光地として知られていた地域での不動産需要の変化です。
単なる休暇利用だけでなく、仕事場としての機能も求められることで、不動産の新しい価値が生まれています。
変化する別荘地の価値
国土交通省の「令和5年地価公示」によると、コロナ禍以降、長野県軽井沢町や白馬町といった従来の別荘地エリアで地価の上昇が続いています。
例えば、軽井沢町の代表的な住宅地の地価は、2023年に前年比10%以上の上昇となりました。
この上昇は、ワーケーション需要の高まりが要因の一つとされています。
別荘地において特に注目すべき変化として以下が挙げられます。
●通年利用を前提とした物件への需要増加
●高速通信環境を備えた物件の価値上昇
●従来の別荘地でのコワーキングスペース併設施設の登場
●物件の賃貸需要の拡大(購入だけでなく賃貸での利用者増加)
他にも、軽井沢プリンスホテルは、2021年から敷地内にワーケーション専用施設「プリンスグランドリゾート軽井沢」を開設しました。
宿泊施設とワークスペースを組み合わせた新しい施設形態として注目を集めています。
参照:プリンスグランドリゾート軽井沢が「ワーケーションリゾート」に進化 | 株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイドのプレスリリース
地方オフィスの需要拡大
出典:Ⅰ.サテライトオフィスの開設状況について(地方公共団体調査) (別紙1)
一方、地方都市においても、サテライトオフィスやコワーキングスペースの需要が増加しています。
令和3年度末時点での地方公共団体が誘致又は関与したサテライトオフィスの開設数は1,348箇所でした。
都道府県別に見ると、開設状況は北海道が最多の110箇所で、次いで新潟県の95箇所となっています。
特に注目される事例として、和歌山県白浜町の取り組みがあります。
同町は、IT企業のサテライトオフィス誘致に成功し、古くからの観光地としての魅力に、ビジネス拠点としての機能を加えることで、新たな地域活性化のモデルを作りを目指しています。
サテライトオフィス需要の特徴として以下が挙げられます。
●高速通信環境の整備が必須条件
●短期利用と長期利用の両方のニーズが存在
●地域コミュニティとの連携を重視
●災害時のバックアップオフィスとしての機能も考慮
また、既存の商業施設や空き店舗をコワーキングスペースに転換する動きも活発化しています。
ワーケーション施設への投資の可能性
ワーケーション需要の高まりは、不動産投資に新たな可能性をもたらしています。
特に注目すべきは、従来の不動産投資では見られなかった収益モデルの登場です。
有望なワーケーション対応施設へ転換する投資対モデル
最も注目を集めているのが、リゾート物件のコンバージョン(用途転換)です。
従来の別荘やペンションを、ワーケーション対応施設へと転換する投資モデルが実績を上げています。
出典:立科町テレワーク推進事業
例えば、長野県立科町のペンション街では、IT企業の開発合宿やワーケーション利用を想定した施設への改修が進み、新たな需要の獲得に成功しています。
ワーケーション施設として成功を収めるために必要な要素
●安定した高速Wi-Fi環境
●Web会議に適した個室スペース
●長期滞在者向けのキッチンや洗濯設備
●仕事に集中できる作業環境の整備
これらの設備を整えることで、一般の宿泊施設との差別化が可能となり、より高い収益性を見込むことができます。
都市部近郊での新たな投資機会
さらに、東京から1〜2時間圏内の都心部近郊の物件では、新たな需要が生まれています。
特に以下の用途での利用が増加しています。
●企業の研修施設
●チームビルディング目的での利用
●中期滞在型のワーケーション
●クリエイティブワークの場としての活用
出典:南房総ワーケーション
例えば、千葉県南房総市の古民家を改修したワーケーション施設では、IT企業やクリエイティブ企業による定期的な利用が定着し、安定した収益を実現しています。
ワーケーションやテレワークの普及により、働く場所、住む場所の選択肢が広がります。
以下の記事では東京以外で稼ぐ場所選びについて不動産投資の観点で解説しています。
脱東京で稼ぐおすすめ不動産投資エリア4選!場所選びのコツを解説
付加価値を生み出す施設運営
重要なのは、単なる作業場所の提供ではなく、その地域ならではの価値を提供することです。
成功している施設に共通する特徴は以下の通りです。
●地域の自然や文化を活かしたアクティビティの提供
●地元の食材を使用した食事の提供
●地域コミュニティとの交流機会の創出
●季節に応じたイベントやプログラムの実施
これらの付加価値の高いサービスを組み合わせることで、競争力のある施設運営が可能となります。
投資判断のポイント
投資を検討する際は、以下の要素を重点的に調査する必要があります。
●公共交通機関からのアクセス
●光回線などの高速通信環境の整備状況
●周辺の観光資源や体験コンテンツの充実度
●地域自治体のワーケーション支援体制
ワーケーション施設の成功には、地域自治体による支援策が重要な役割を果たしています。
和歌山県白浜町や長野県立科町は、その好例です。両町とも、ワーケーション推進のための専門部署を設置し、企業誘致から施設整備まで、一貫した支援体制を整えています。
こうした行政のバックアップがあることで、施設運営者は地域資源を活かした独自のプログラム開発が可能になり、より魅力的な施設づくりにつながっています。
官民が連携したワーケーションの取り組みは、投資の成功を左右する重要な要素と言えるでしょう。
このように、ワーケーション施設への投資は、従来の不動産投資とは異なる専門性と工夫が求められます。
しかし、適切な立地選定と施設運営により、新しい形の不動産投資として大きな可能性を秘めているのです。
これからのワーケーション投資が目指すもの
ワーケーションは、単なる「働き方改革」の一環を超えて、地域活性化と新しい不動産価値の創造をもたらしています。
特に注目すべきは、従来の観光地や別荘地が、通年での利用価値を持つビジネス拠点として生まれ変わりつつある点です。
この変化は、不動産投資の新たな可能性を示唆しています。
高速通信環境の整備や、地域資源を活かした独自のプログラム開発など、一定の投資と工夫は必要ですが、地域自治体による支援策を活用しながら、官民一体となった取り組みを進めることで、持続可能な事業モデルの構築が可能となっています。
今後は、単なる「仕事ができる場所」の提供を超えて、その地域ならではの価値や体験を組み込んだ施設づくりがより重要になるでしょう。
地域の自然、文化、コミュニティとの調和を図りながら、新しい働き方と暮らし方を提案できる施設には、大きな投資機会が広がっています。
ワーケーション施設への投資は、収益性の追求だけでなく、地域創生への貢献も期待できる新しい不動産投資の形として、今後さらなる発展が期待されます。
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