1 | なぜ中古物件投資に「物件の健康診断」が不可欠なのか
中古の収益物件には、一見しただけでは見抜けない「隠れた欠陥」が潜んでいることがあります。購入後に雨漏りや給排水管の老朽化などが発覚すれば、計画外の高額な修繕費が発生し、利回りは大幅に低下します。
そこで成功している投資家が行うのが、専門家による「物件の健康診断」、つまりホームインスペクションです。これにより、漠然とした「未知のリスク」を、具体的な「把握可能なリスク」へと転換できます。
修繕点が見つかれば、その費用を根拠に価格交渉を進めたり、将来の修繕費を長期的な事業計画に正確に組み込んだりと、データに基づいたリスク管理が実現できるのです。
2 | ホームインスペクション(住宅診断)の基本
不動産投資の成否を分けるホームインスペクションとは、具体的にどのような制度なのでしょうか。
まずはその定義と、2018年の法改正によって何が変わったのか、基本的な知識を押さえておきましょう。
2-1 | ホームインスペクションとは?

ホームインスペクションとは、建築士などの専門家が「中立的な第三者」の立場で、建物の劣化状況や欠陥の有無を客観的に診断することです。
国土交通省のガイドラインに沿って、主に建物の構造耐力や雨水の浸入を防ぐ部分を、建物を傷つけない「非破壊・目視調査」で点検します。
2-2 | 2018年の法改正で義務化された?
インスペクションの実施自体は義務ではありません。
2018年の宅地建物取引業法改正で義務化されたのは、不動産会社が媒介契約時や重要事項説明時などに、インスペクションについて買主・売主に説明することです。
2018年4月1日に行われた法改正によって、既存(中古)住宅の売買にかかわる各手続において、宅建業者には次のことが義務付けられています。
(1) 媒介契約の締結時に建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面を依頼者に交付すること
(2) 買主等に対して建物状況調査の結果の概要等を重要事項として説明すること
(3) 売買等の契約の成立時に建物の状況について当事者の双方が確認した事項を記載した書面を交付すること
これにより、中古物件取引の透明性が向上し、買主が安心して取引に臨める環境が整いつつあります。
3 | 不動産投資でインスペクションが必須な4つの理由
ホームインスペクションは、単に欠陥を見つけるだけの調査ではありません。その結果を活用することで、投資家は多岐にわたるメリットを得ることができます。
ここでは、投資の成功確率を飛躍的に高める4つの具体的な理由を解説します。
3-1 | 隠れた欠陥を発見し、将来の高額修繕費を防ぐ
最大のメリットは、購入後に発覚する想定外の大規模修繕リスクを事前に洗い出せる点です。
天井の微かなシミが数百万規模の修繕のサインであったり、基礎の小さなひび割れが地盤沈下の兆候であったりと、致命的な損失につながるリスクを未然に防げます。
3-2 | 価格交渉の客観的な材料になる
第三者機関の報告書は、価格交渉における強力な客観的証拠(エビデンス)となります。
「屋根の補修に50万円かかるため、その分を価格から引いてほしい」といった具体的なデータに基づく交渉が可能になり、有利な条件で物件を取得できる可能性が高まります。
3-3 | 正確な状態で、精度の高い事業計画を立てられる
「5年後に外壁塗装で100万円」といった将来の支出を、長期的な収支シミュレーションに組み込めます。
これにより、勘や経験に頼らない、データに基づいた精度の高い財務計画を立てることができ、安定した賃貸経営に繋がります。
3-4 | 売却時のトラブル(契約不適合責任)を防ぐ
将来物件を売却する際、インスペクション報告書を契約書に添付することで、報告書に記載された建物の状態が契約内容の一部となります。
これにより、後から買主に記載事項を理由に責任を追及されるリスク(契約不適合責任)を大幅に低減でき、将来の法的な紛争から自身を守る「盾」になります。
4 | ホームインスペクションの費用と調査内容
実際にインスペクションを依頼するとなると、気になるのが「費用」と「具体的な調査範囲」です。
ここでは、一般的な費用相場と、標準的な調査でどこまで分かるのか、そしてさらに詳しく調べるためのオプション調査について解説します。
4-1 | 費用相場はいくら?【一戸建て・マンション別】

数万円の費用は、将来の数十万~数百万円の損失を防ぐためのリターンが高い「投資」と捉えるべきです。
一般的な費用相場は、一戸建てで約5万円〜8万円、マンション(専有部)で約4万円〜6万円です。
4-2 | 具体的に何をどこまで調べる?

標準調査は、国交省のガイドラインに沿った「非破壊・目視調査」が基本です。
壁の内部や家具で隠れた場所は対象外となります。
・外部:基礎、外壁、屋根など
・内部:壁・床の傾き、天井の雨漏り痕、小屋裏・床下(点検口から見える範囲)
・設備:給排水管の水漏れ、換気扇の動作など
4-3 | オプション調査でさらに詳しく
標準調査で懸念が見つかった場合や、築古物件などではオプション調査が有効です。
・小屋裏・床下進入詳細調査:シロアリ被害などを至近距離で確認
・赤外線サーモグラフィー調査:壁内部の雨漏りを検知
・耐震診断:旧耐震基準(1981年6月以前)の物件では必須
5 | 依頼前の3つの注意点【限界とリスク】
ホームインスペクションは非常に有効な手段ですが、万能ではありません。そのメリットを最大限に活かすためには、調査の限界や注意点を事前に理解しておくことが不可欠です。
ここでは、依頼前に必ず知っておくべき3つのポイントを解説します。
5-1 | 誰が依頼し、費用を負担するのか
原則として、買主(投資家)が自らの意思で業者を選び、費用も全額負担します。
不動産会社や売主からの紹介は、中立性が損なわれる「利益相反」のリスクがあるため、避けるのが賢明です。
5-2 | あくまで「目視」が基本。調査には限界がある
インスペクションは万能ではなく、建物の性能を「保証」するものではありません。
壁の内部など物理的に見えない箇所は調査できず、あくまで調査時点での状態を記録する「スナップショット」と理解しておく必要があります。
5-3 | インスペクターの質に依存する
情報の質は、担当者の技術力や経験に大きく左右されます。
重大な欠陥の兆候を見逃す可能性もゼロではありません。だからこそ、次の章で解説する厳しい基準で、信頼できる業者を見極めることが重要になります。
6 | 投資家目線で選ぶ!失敗しない業者の3つのポイント
インスペクションの価値は、依頼する業者の質によって大きく左右されます。では、数ある業者の中から、本当に信頼できるパートナーをどのように見つければよいのでしょうか。
ここでは、投資家ならではの厳しい視点で業者を選ぶための、3つの重要なポイントを解説します。
6-1 | 収益物件の調査実績が豊富か
投資家は、居住性だけでなく「事業の継続性」や「長期的な収支計画」に直結する視点が必要です。
設備の耐用年数や大規模修繕計画、共用部の状態など、投資家ならではの視点で診断できる、アパートや一棟マンションの調査実績が豊富な業者を選びましょう。
物件の選び方については以下の記事で詳しく解説しています。こちらもあわせてお読みください。

不動産投資は物件選定がすべて!物件選びで見るべき10のポイントと6つのすべきこと
6-2 | 担当者は「一級建築士」か
インスペクターの資格は様々ですが、最も信頼性が高いのは国家資格である「一級建築士」です。
建物の構造に関する高度な専門知識を持つため、単なる不具合の報告だけでなく、その根本原因まで踏み込んだ分析的な診断が期待できます。
6-3 | 売主と利害関係のない「中立な第三者」か
最も重要なポイントです。不動産会社や売主からの紹介を避け、投資家自身が複数の業者を比較検討し、直接依頼しましょう。
インスペクターの報告責任が、依頼主であるあなたに対してのみ負われる関係を築くことが、あなたの資産を守ることに繋がります。
7 | インスペクションを賢く利用しよう
今回は、不動産投資におけるホームインスペクションの重要性を解説しました。最後に、重要なポイントを振り返ります。
・インスペクションは「隠れた欠陥」を発見する物件の健康診断
・数万円の費用は、将来の高額な損失を防ぐための「投資」
・価格交渉や精度の高い事業計画の強力な武器になる
・業者選びは「中立性」「収益物件の実績」「一級建築士」の3点が鍵
中古不動産投資は、リスクを恐れるのではなく、正しく管理することが成功の秘訣です。ホームインスペクションという武器を手に、データに基づいた自信ある投資判断を下し、堅実な資産形成を目指してください。
また、物件選定などの手間やリスクをさらに抑えたい場合は、プロが選んだ物件に1万円程度から投資できる「不動産投資クラウドファンディング」も有力な選択肢です。まずは情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。
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