不動産投資で火災保険が欠かせない理由と補償の切り分け
不動産投資を始めると、物件は資産であると同時に、災害や事故のリスクを抱える対象にもなります。火災や自然災害で建物が損害を受ければ、その損失は基本的に所有者である大家が負います。火災保険は、この損失を金銭で補うための備えです。
火災保険は、誰が何を守るのかが物件の使われ方で変わります。自宅用とは考え方が異なり、大家と入居者で加入する範囲がはっきり分かれています。
リスク全体は不動産投資における災害リスクの整理もあわせて確認すると、保険で守るべき範囲がつかみやすくなります。

不動産投資における3つの災害リスクと確認すべき6つのポイント
(1)もらい火では損害を請求できないため、大家は自分で建物を守る

大家が火災保険に入る一番の理由は、もらい火の損害を火元に請求できない点にあります。失火責任法により、重大な過失がない限り、失火した人は近隣への損害賠償責任を負いません。
そのため、隣家の失火で投資物件が焼けても、火元からは補償を受けられません。損失を取り戻す手段は大家自身の火災保険に限られ、建物を守る保険が投資の前提になります。
(2)大家は建物、入居者は家財と借家人賠償を守る
火災保険で守る対象は、大家と入居者で分かれます。大家は建物本体、入居者は自分の家財と、大家への賠償責任です。
入居者側の備えの中心は借家人賠償責任保険です。入居者には部屋を元の状態に戻して返す原状回復義務があり、この義務は失火責任法の対象外とされています。
そのため、軽い過失による火災でも、入居者は大家に対して修繕費などを賠償する責任を負います。
(3)加入は任意でも、融資を使うなら実質的に必須
大家に火災保険の法的な加入義務はありません。ただ、実務では加入がほぼ前提になっています。
金融機関が融資の条件として加入を求めることが多く、未加入のまま火災などが起きれば大きな損失を大家がそのまま負うためです。
ローンで収益物件を取得する場合は、担保を守る目的で加入を求められるのが一般的です。任意とはいえ、建物を持つなら加入して備えておくのが基本になります。
投資物件で選ぶべき補償と特約
大家が加入する火災保険は、基本の補償と、任意で付ける特約に分かれます。基本の補償は火災や落雷、風災などに対応し、多くの契約で共通します。
ここに、物件の使われ方に合わせた特約を足していくのが投資物件の保険の考え方です。自分がどこまで備えるべきかは、大家と入居者の役割分担から整理すると分かりやすくなります。

大家が押さえるべきは、建物本体の補償と、投資特有のリスクに対応する特約です。判断が分かれやすい項目を順に見ていきます。
(1)水災補償は立地で判断する
水災補償は、洪水や土砂崩れなどによる被害に備えるものです。付けるかどうかは物件の立地で判断します。
出典:水災料率を細分化します
損害保険料率算出機構によると、水災の料率は2023年6月の見直しで地域のリスクに応じて5区分に細分化され、2024年10月から適用されました。浸水リスクが低い立地なら保険料は抑えられ、高い立地では高くなります。
判断の目安になるのが自治体のハザードマップです。高台で浸水リスクが低い物件なら水災を外して保険料を抑える選択もあり、河川の近くや低地なら付けておくほうが安心です。立地を確認せず一律で判断しないことが大切です。
(2)地震保険は費用対効果で判断する
地震保険は、火災保険とセットでのみ加入できます。地震や噴火、津波による損害は火災保険では対象外のため、備えるには地震保険が必要です。
地震保険制度によって、保険金額は火災保険金額の30〜50%の範囲で設定し、建物は5000万円、家財は1000万円が上限となっています。この枠のため、地震保険だけで建て直すことは想定されておらず、被災後の生活再建に充てる性格の保険です。
加入するかは建物の構造や立地で判断します。新耐震基準(1981年以降の基準)の鉄筋コンクリート造は倒壊リスクが相対的に低いため、補償を抑えたり見送ったりする大家もいます。一方で木造は手厚めに備える判断が一般的で、地震の多い地域かどうかも含め、費用対効果で選ぶ材料として考えます。
(3)施設賠償責任特約で建物起因の事故に備える
施設賠償責任特約は、建物が原因で第三者に損害を与えたときに備える特約です。外壁のタイルや看板が落下して通行人がけがをしたり、駐車中の車を傷つけたりした場合に、大家が負う賠償責任に対応します。
賠償額が大きくなることもあるため、保険金額は高めに設定するのが一般的です。建物が古くなるほど外壁や設備の劣化による事故のリスクは上がるため、長く保有する投資物件では優先度の高い特約になります。
(4)家賃補償・家主費用特約で収益の落ち込みに備える
家賃補償特約と家主費用特約は、建物の損害そのものではなく、収益への影響に備える特約です。
家賃補償特約は、火災などで部屋を貸せなくなった期間の家賃収入の減少をカバーします。復旧までの数カ月、家賃が入らない状況でも収支の悪化を抑えられます。
家主費用特約は、入居者の死亡事故などに伴う原状回復や清掃、遺品整理などの費用に備えるものです。
(5)区分所有と一棟で付ける範囲が変わる
同じ火災保険でも、区分所有と一棟では大家が付ける範囲が変わります。
区分所有で大家が加入するのは専有部分です。エントランスや廊下などの共用部分は管理組合が一括で契約するのが一般的で、専有部分は各区分所有者が個別に契約します。専有部分の保険金額は内装や設備が対象になるため、建物全体より低くなります。
一棟所有では建物全体が大家の資産であり、共用部分も含めてすべてを自分の火災保険で守る必要があります。
保険料の動向とコストを抑える考え方
火災保険料には、一律の相場を示しにくい事情があります。建物の構造や延床面積、所在地、築年数、選ぶ補償の内容で保険料が大きく変わるためです。
たとえば同じ面積でも、木造か鉄骨造かで保険料は変わり、水災補償を付けるかどうかでも上下します。そのため、金額の目安を一つに絞るより、自分の物件の条件で複数の保険会社から見積もりを取って比較するほうが、実際の負担を正確につかめます。
(1)2024年の改定と契約期間の短縮

火災保険料は近年上昇傾向が続いています。損害保険料率算出機構が2023年6月に、各社が保険料を決める基準となる参考純率を全国平均で13.0%引き上げ、各社がこれを受けて2024年10月に保険料を改定しました。これは過去10年で最大級の引き上げで、その前の2021年の改定は10.9%でした。
契約期間の面でも負担が増えています。最長契約期間は2022年10月に10年から5年へ短縮され、更新のたびに改定後の料率が反映されやすくなり、長期契約による割引の効きも小さくなりました。実質的な値上げと更新の手間の増加につながります。
なお、今後さらなる改定も業界では見込まれていますが、公的な参考純率の改定は現時点で発表されていません。値上げが決まったものとして判断せず、確定した情報を確認することが大切です。
(2)コストを抑えるための考え方
保険料には調整の余地があります。長期の一括払いで年あたりの負担を抑える、立地に応じて水災補償の要否を見直す、自己負担額である免責金額を設定する、複数の保険会社で見積もりを比較する、といった方法です。
ただし補償を削りすぎると、いざというときに保険が役に立たなくなります。保険料を下げること自体が目的にならないよう、リスクとのバランスで判断する材料として使うのがよい方法です。
(3)経費の扱いと、残り続ける手間
火災保険料は不動産所得の必要経費に計上できます。ただし、契約期間が1年を超える一括払いの場合、支払った年に全額は経費にできません。
所得税法によると、当年分は損害保険料、翌年分は前払費用、翌々年以降は長期前払費用として、期間に応じて分けて計上します。受け取った保険金は損害の穴埋めにあたるため原則非課税です。
見積もりの比較や補償の見直し、事故時の保険金請求は、物件を保有している間ずっと続きます。この手間の差も含めて投資手法を比べたい場合は、不動産クラウドファンディングと現物・J-REITの違いが参考になります。

不動産クラウドファンディングと現物・J-REITの違いとは?
保険の手間も踏まえて投資の方法を選ぶ
不動産投資で火災保険を選ぶときは、大家が守るのは建物だという点が出発点になります。もらい火は火元に請求できないため、建物を守る火災保険は投資の前提です。そのうえで施設賠償責任特約や家賃補償特約など投資に特有のリスクに効く特約を優先し、水災や地震、免責の設定は物件の立地と構造から判断します。
保険料は必要経費に計上でき、コストを抑える方法もあります。ただし、補償の見直しや更新、保険金請求といった手間は、物件を保有している間ずっと続きます。
こうした手間そのものを負いたくない場合は、投資の形を変える選択肢もあります。不動産クラウドファンディングでは建物の保険や管理を運営事業者が担うため、投資家がこれらの事務に関わることはありません。少額から始められる点も含めて、不動産クラウドファンディングの仕組みとメリット・デメリットを確認したうえで、自分に合った方法を選ぶとよいでしょう。

不動産クラウドファンディングの仕組みとは?メリットや他投資と比較
最後に、この記事の要点を振り返ります。
●大家が守るのは建物であり、もらい火は請求できないため、火災保険は投資の前提になります。
●施設賠償や家賃補償など投資特有のリスクに効く特約を優先し、水災・地震・免責は立地と構造で判断します。
●保険料は経費にできますが、更新や請求の手間は残ります。手間を抑えたいなら、保険や管理を運営事業者が担う仕組みも選択肢になります。
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